東京2020オリ・パラ大会のレガシーを受け継ぎ
周辺地域と連携して羽田空港の脱炭素を推進する。 PROJECT

I.H

羽田未来総合研究所出向 施設計画室(兼) 施設企画管理部 施設企画管理課(兼) ※取材当時
担当業務:ターミナルの機能強化計画の推進
2006年入社 工学部卒

富山県出身。入社後、成田エアポートエンタープライズ(当時)へ出向。成田国際空港の免税売店で勤務した後、2年目に本社計画課へ異動。その後施設管理部門で賃貸借管理などの仕事に携わる。2014年から2016年にかけて出向先である銀行においてロンドン駐在を経験した後、施設計画室に異動し、東京オリンピック・パラリンピックの準備に携わる。2019年に羽田未来総合研究所に出向し、施設計画室と兼務。2020年から施設企画管理課も兼務し現在に至る。

コロナ禍という未曽有の事態に対応し
空港全体が一丸となって大会の運営に貢献

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新型コロナウイルス感染症の影響により開催を1年間延期した東京2020オリンピック・パラリンピック大会。私たちは海外から大勢のお客様をお迎えするために受け入れ態勢の準備を進めていましたが、私たちが当初思い描いていた大会の姿とは一変してしまいました。世界的なパンデミックの中で大会を開催することは史上初であり、従来の手法は全く参考になりません。日々変わりゆく政府の水際対策に合わせて、さまざまなケースを想定しながら計画を全て見直しました。延期により開催時期まで余裕ができたとも言えますが、直前まで新型コロナウイルスの感染状況も読めない中で大会を迎えたというのが正直なところです。まさに手探りな状態の中、政府、大会組織委員会をはじめ、エアラインの方など羽田空港に関わる企業・組織と連携することにより大会の運営に貢献できたと自負しています。

どんな状況であっても、日本を訪れた選手団や報道陣の方々にとって、羽田空港が入口であり、自国へ帰っていく出口であることは変わりません。厳しい行動規制で観光もできずに日本を発つ方々の思い出になり、今後再び日本を訪れていただければと考え、第3ターミナルの出国エリアに記念撮影ができるフォトスポットを設けました。また、メッセージを書いて残すことのできる絵馬をご用意したところ、大会への賛辞や日本を再訪したいという声が多数寄せられ、大会関係者の良い思い出の一つになっただけでなく、結果として、本件を企画した私たちが喜び、励まされることにもなりました。

コロナ禍によって羽田空港の利用者数は大きく落ち込みましたが、その間も羽田空港の進化は停滞することなく、現在では今後の更なる需要増を見据えて第1、第2ターミナルの機能拡充計画を進めています。いかなる時もお客さまの利便性・快適性・機能性を追求することが、私たちの使命だからです。

地の利を生かした水素の利活用により
羽田空港の脱炭素化を目指す

東京2020オリンピック・パラリンピック大会が私たちに残したレガシー(遺産)は、羽田空港に関わる事業者や組織が同じ目的のもとに協力・連携できたことだと思います。現在、水際対策の緩和等で需要が回復傾向にあり、再び多くのお客さまに空港をご利用いただくようになりましたが、急激な需要の回復に対応できているのも、不測の事態を関係者全員が一丸となって乗り越えてきた経験を生かせているからです。

さらに、そのレガシーを空港の外に広げて、周辺地域と連携して新しい価値を創出する検討も始めています。それが脱炭素社会の実現に向けた羽田空港のCO2排出量の削減です。

空港分野では大規模な太陽光発電(メガソーラー)を設置し、エネルギーの供給源とすることで脱炭素化を進める動きがみられます。羽田空港ではメガソーラーに加えて、水素をエネルギーの供給源として活用できないか、検討を進めています。2023年3月、川崎臨海部が液化水素サプライチェーンの商用化実証の受入地に選定されました。これは、商用規模での国際的な液化水素サプライチェーンが羽田空港の近隣に設置される可能性が高まったということです。私たちは、現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構からの委託調査として、川崎市と大田区を含む官民6者での羽田空港及び周辺地域における水素利用の調査を行っています。

また、施設計画室では、現在計画を進める第1ターミナルの拡張計画において、大規模空港として国内初となるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)オリエンテッドの認証取得を目指しています。そのためには、基準となるエネルギー消費量を30%削減しなくてはなりません。空港という施設にとって、ハードルの高いものですが、これまでも様々な挑戦を続けてきた当社であるからこそ達成できると考えています。

新たな挑戦が
羽田をサステナブルな空港へと進化させる

もう一つ、2025年に竣工予定の第1ターミナル拡張エリアの一部を木造化する計画に挑戦しています。この挑戦は施設計画室内の日常の会話の中から生まれました。木材は空気中の二酸化炭素を吸収し炭素を固定する建材として注目されていますが、当初は公共性の高い羽田空港に必要な耐火性や耐震性などの基準を満たすことができるかはわかりませんでした。そこで、施設計画室では木造の特徴や事例の調査、設計者と法規制の確認を重ね、耐火性や耐震性に妥協することなく一部木造化が実現できることを確認しました。さらに、木材の持つ調湿効果や香りは、視覚や嗅覚、触覚を通じて利用する人をリラックスさせることが科学的に証明されています。第1ターミナルの拡張エリアは主に出発を待つゲートラウンジとなるため、一部木造とすることで、お客さまの緊張を和らげて滞在環境の向上につながる効果も期待されます。

羽田空港は24時間運用であり、また、日本で最も多くの方にご利用いただいていることから、まだまだCO2の排出量が多いというのが現状です。このターミナルの木造化もZEBオリエンテッド取得を目指すという挑戦も、私の所属する施設計画室の提案から始まったものですが、こうした社員の意見を聞き入れてチャレンジできる環境があることが日本空港ビルデングという会社の良さの一つだと思います。ターミナルの機能拡張を続ける一方で脱炭素の目標を達成するためには、既成概念にとらわれず新しいチャレンジを続けていくことが必要です。今後も最先端の技術を活用しながら、羽田空港の機能強化と持続可能な社会への貢献を実現していきます。